企業価値向上を目指すガバナンス改革の行方
2014年の会社法改正により、日本企業は「監査役会設置会社」「監査等委員会設置会社」「指名委員会等設置会社」のいずれかを選択し、経営の透明性と持続的成長を追求することが求められました。これに続くコーポレートガバナンス・コードの導入は、企業価値を高めるための指針を提供し、特に外部からの監視を重視する体制を強化しました。しかし、果たしてこれらの改革は期待通りに機能しているのでしょうか。
指名委員会等設置会社は、社外取締役を活用して取締役会の監視機能を強化する点で注目されています。この制度により、経営の透明性が高まり、外部の目線を取り入れた意思決定が行いやすくなります。しかし、現実にはその運用が難しく、実際に効果が出るかは各企業の取り組みに依存しています。例えば、東芝の不適切会計問題や三菱電機の品質不正などの事例は、制度が形式化されるだけでは本質的なガバナンスの向上にはつながらないことを示しています。
一方で、指名委員会等設置会社には、意思決定のスピードを向上させ、効率的な経営を実現する可能性も秘めています。執行役に業務を委譲し、取締役は監視に専念することで、迅速な事業展開が期待されます。ただし、これも制度設計の妙が必要であり、単なるスピード重視では、逆に非効率を招くこともあります。実効性のあるガバナンスを築くためには、形式だけでなく、現場レベルでの風土改革が不可欠です。
過去1年間の株価上昇率を分析すると、指名委員会等設置会社のパフォーマンスが他の設計に比べて優れていることがわかります。指名委員会等設置会社はプライム市場を含むすべての市場で最も高い株価上昇率を記録しており、企業価値の向上にプラスの影響を与えていることが示唆されますが、調べてみるとROAは、指名委員会等設置会社の上昇率平均は全上場会社平均を上回りませんでした。
ガバナンス改革が企業価値を高めるには、経営と監視の役割を明確に分離しつつ、現場の迅速な対応を支える制度の構築が重要です。企業文化の中にガバナンスの意識を根付かせ、持続的な成長へとつなげる努力が求められます。さらに、指名・報酬委員会を通じた社外取締役の活用は、ガバナンスの透明性を向上させることは間違いないと思われますが、社内の抵抗や運用の難しさも避けて通れません。
日本企業の「稼ぐ力」を再興するためには、制度をうまく生かし、柔軟な運用と文化改革を両立させることが肝要です。透明性を確保しながらも、迅速な意思決定を可能にするガバナンスのあり方を模索し、真に企業価値を高める仕組みを構築することが、今後の課題として残されています。